過剰な何か

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巨人社の自転車でマスプロについて想うことなど - 藤尾
2019/01/23 (Wed) 22:50:55
「巨人社の自転車はコスパが良い」としばしば言われる。そこそこのコンポーネントを組み込んでいる割に価格が安い、ということだ。

で、巨人社の自転車を買うことにした。自転車は、工場で7割ほど組み立てられた状態で販売店に届き、お店で完成状態に組み上げて顧客の手に渡る。で、せっかく買うのだからメーカー直営店にしておけば、商品も、店での組み立て作業も完璧で間違えないだろう、ということで、自宅から遠いし、定価販売だし(近所の普通の自転車店では10~20%の割引価格で買える)、というデメリットを顧みず国内で数店舗しかないという巨人社の直営店で買ったのだった。絶対的な安心感と信頼を求めて…。

ところが、この自転車は、店で受け取って帰宅する十数キロも走らないうちにフロントギアの変速機が不動になった。リア側の変速機は数十回以上操作して(当然ながら)無問題なのだが、フロント側は5~6回も操作していないのに、変速レバーのテンションが急に無くなり、チェーンが内側から外側のギアに登らなくなってしまった。
さらに、よくよく車体をながめてみると、黒く塗装されているクランクが、広範囲にわたって擦れて地肌が見えている。フレーム下部には、ザックリと獣が巨大な爪で引っ掻いたような深い傷が数本走っている。腫れ物に触るようにそっと丁寧に乗ってきただけに、これらの傷だの擦れだのは初めから付いていたのだろう。

時間も遅かったので数日後に販売店に持ってゆくと、「あ、ワイヤーが伸びたんですね、調整します」と軽く言って、作業台に乗せて何やらいじって「はい、治りました。初期伸びは必ずあって初めは調整が必要なんですよね」と、言う。
余りにも馬鹿にした答えだ。実際は何かが外れたか、ワイヤーの取り回しが何かと干渉していたのではないか?あの急な変速レバーのテンションの喪失は、ワイヤーの伸びだけだとはとても思えない。仮にそうだったとしたら(ワイヤーの初期伸びが原因であるとしたら)、販売店での自転車の組み立て時に、「ワイヤーを伸ばして初期伸びを取る」という作業を怠っていたのだとしか言いようがない。
なのに、謝罪も弁解も無し。「そういうものだ」と言う強弁だけ。納車から300kmほども乗って、各部調整が必要ですね、というのであれば、話はわかる。でも買った直後の話だ。
そう指摘すると、いやいや納車前には十分に整備して傷が無いかなども確認しております、と言う。「傷?、付いてるじゃあないですか?」と言うと、何と、素直に認めた…。このクランクの擦れや、フレームにザックリと付いた傷のことは、店も認識していたのに、お客にすっトボけてそのまま引き渡した、という事だったのだ…。

安心感と信頼を求めて、わざわざ遠い上に定価販売の直営店で買ったのに、車体は傷物の上に整備不良のWパンチと来たもんだ。直営店に求める全てが裏切られた。
恐らく、車体の傷は、工場での梱包時とかに他の車体のギアとぶつけて深い傷が付いたのだろう。クランクの擦れは、台湾からの輸送中に荷崩れして段ボールと何度も何度も激しく擦れて、塗装が剥げたのだろうと想像される。(或いは、他の客が荒っぽく使った上に返品してきた車体を、いいかげんに点検して再び「新車」として再出荷されてきた個体だったのかもしれない)

本当は解約・返金と言いたい所だったが、他の個体との交換という事で済ませた。(今思えば、これが間違えだった…)


10日ほど後、新しい車体が入荷したので、再び受け取りに行った。ところが…。驚くべきことに次の車体もポンコツだった。
20kmほど走った頃から、「パキッ…ポキッ」と、指の関節を鳴らすような音がしはじめた。チェーンやギアなどが、どこかと当たったり干渉したりしているのか?と思い子細に点検したが、そういう原因ではないようだ。BBかクランクの辺りから音は響いてくる。30km、40kmと走行距離を増すに従い音のする頻度は頻繁になり、50km過ぎからはクランクを数回回転させる度に鳴るようになった。自転車を降りてペダルを回してみる限りでは音はしない。乗って荷重をかけて走り出すと、音がする…。
もう、バカバカしくて販売店に文句を言う気にもならない。
「いや、スポーツサイクルは繊細ですから、初期にはこういった事がおこりがちで、整備調整しながら乗ってゆくものなんです」とでも言うにきまっている。

確かにそういう面はあるのかもしれない。「ママチャリ」は頑丈な農耕馬・地上に居るよりも飛んでいる時間の方が長い旅客機のようなものだとすると、「スポーツサイクル」は、飛んでいる時間の、数倍の整備時間が必要な戦闘機のようなものかもしれない。
でも、僕の乗っているもう一台のスポーツサイクル(KHS製)は、すでに1000Km近く乗って、輪行も10回以上して、あちこちブツけたり倒したりしているが、異音のイの字もしないし、不具合のフの字も無い。チェーンにオイルを挿すぐらいの、ほぼノーメンテだが絶好調だ。恐らく、いわゆる「当たり」の部品ばかりで組まれた車体であった上に、組み立ても入念に行われた車体だったのだろう。
それにひきかえ、巨人社の2台の車体は、公差ギリギリの「不良」寸前の部品か、或いは抜き取り検査をすり抜けた不良品の部品が組み込まれた個体であった上に、組み立てにも何らかの抜けがあったのだろう。2台とも総合的な意味で「ハズレ」の車体だったのだ。

思えば、巨人社の2台の自転車が起こした不具合個所は、信頼の置ける「シマノ」の部品の個所ではなく、製品のコストダウンのためにシマノ以外の「安い部品」が使われている個所ばかりだ。(フロントギアクランク回り、BB、ワイヤーなど。ついでに言うと、不具合こそ起こさなかったが、この2台に装備されていた某社ワイヤー式ディスクブレーキは、引きが重くて手が疲れる粗悪品だった…)

結論としては、巨人社の自転車は、よく言われるような「コスパが良い」というのではなく、「安かろう悪かろう」であった、ということだ。少なくとも、僕が経験した2台は。
さらに言えば、「メーカー直営店」だからといって、特に丁寧で高度な整備や、製品に対する特別な気遣いがされるというワケではない、という事が判明した。(それどころか、傷物の粗悪品を整備不良状態で売りつけられる、B級商品処分場であった。もちろん、この直営店の商売の全てがそうだというワケではないでしょうが、少なくとも僕個人にとっては、結果として立て続けに粗悪品を押し付けられたというのは厳然たる事実です)
まあ、勝手に期待を掛けた僕が悪いんですけど…。


あ、で、パキポキ音のする2台目の「新車」はどうしたかって?
あまりのアホらしさに、わざわざ遠い「直営店」に持って行って文句を言う気力も無くし、「スポーツサイクル買い取り専門店」に叩き売りました。自転車を作業台に乗せて、ひと通り各部の動作確認はしていましたが、あのパキポキ音は実際に乗って荷重をかけて走らなくては鳴らないので、「不具合無しの美品」という事で高価買取していただきました。

それにしても、買い取り金額は新車価格の1/3強でしかありません。
今回は、高い授業料でした。

     ※

そういえば昔、レッドバロンで買った中古オートバイが、実際に乗って走らなければわからない不具合を抱えていて、泣かされたのを思い出します。ある程度の長距離を走って各部が高温になると、信号待ちなどで、ストンとエンジンがストールしてしまい、数十分間放置しないとエンジンが再始動しない、という症状でした。中古買い取り・販売店でチョロッと検査しただけでは見つけられない不具合ですね。恐らく、前のオーナーは、この症状に嫌気がさして愛想をつかしてレッドバロンにオートバイを売り払ったのでしょう。当然、レッドバロンにはそんな不具合の存在は申告せずに。

さらに言うと、中古のカメラレンズでも同じような経験があります。ライカのレンズの「新品同様」品を買ったのですが、今一つピントが甘い。あのレンズは、外観上、傷は無かったけれど、何らかの衝撃や振動を受けて調整がズレた個体だったのだと想像されます。中古買い取り・販売店では、外観がキレイなだけに甘い検査で「新品同様」として査定したのでしょう。当のレンズを売った側の人は、ピントの来なくなったレンズを修理に出すと(ライカだけに)えらく費用がかかるので、「ほとんど使ってません。外観、キレイでしょ」とかだけ言って、まんまと売り抜けたのでしょう。
もちろん、この時のレンズは、カメラ店に返品しました。

レンズといえば、こんな事もあった。中華製の、レンズのマウントアダプターは、両端にネジが切ってある単なる筒というだけの単純な製品なのに、ネジ山がいい加減で、レンズが装着できないというシロモノだった。21世紀にもなって、こんな単純な構造の機器なのに、これほど出鱈目な粗悪品が流通しているというのは、ちょっと信じられない思いがしたものだ。
マウントアダプターでは、装着すると、カメラ本体の内部の部品と干渉して、カメラ本体内部を削ってしまうという恐ろしい製品に出くわした事もある。魑魅魍魎の世界だ。

そうそう、ヤフオクでは、カビだらけのレンズを「スカッとキレイな良品です」と嘘を言われて掴まされた事もあります。(この時は、売り手の「当方素人のためノークレームノーリターンで」という前置きがあったため、泣き寝入りしました…笑)



今回の自転車の件では、逆に、僕は不良品を掴まされる側ではなく、不良品を野に放つ側に立ってしまいました。正直、あんまし胸は痛みません。良心の呵責に苛まれるっていう事も全然ありません。自分で驚きです。今まで何度も何度も何度も掴まされる側に立ってきたからでしょうか…。


それ以外でも、長年生きていると(新品の)工業製品を買ったら不良品だった、という経験は、いくらでももあります。カメラでは上記の他にスウィッチが利かないなどの不良が2度ありました。即、交換でした。アパレルでも、数万円のジャケットなのに、いきなりボタンがブラブラという事もありました。(父親が買った車が、いきなり交差点の真ん中でラジエターから蒸気を噴き出した、という事もありました)
それを思えば、今回のように(新品の)自転車が不良品だったり傷物だったりしたって、別に、珍しいわけでも何でもないわけです。

でも、いずれにしても、もう巨人社の自転車は買いません。2台立て続けじゃあねえ…。これは巨人社の何らかの企業体質が露呈したっていう事なんでしょうか?コストダウンの弊害っていう事でしょうか?
とにかく、わざわざ行った「直営店」でこんな目にあった、っていうショックが一番大きいですねえ…。
あと、教訓としては、自転車は自宅の近くの店で買うべきです。すぐに修理に出すなり文句を言うなりができるように。